はじめに
今の日本は,「悪しき」競争原理の行き過ぎで,日本の社会が古来持っていた「地域社会の助け合い」精神まで浸食しつくしたかのようにみえます.
経済戦略会議は「日本経済 再生への戦略」と称して平成11年に「健全で創造的な競争社会」に日本を再構築することを提唱し,さまざまな施策が開始されました.人事制度においても社員の就業意欲を喚起することを理由に,年功賃金を退縮させ,差が大きくつく成果主義給与に切り替えられたのです.
およそ10年が経過して,わが国でみられる現象はどうでしょうか.非正規労働者の再挑戦の機会が極めて乏しくなり,所得階層の固定化が進んでいます.企業経営は幾分持ち直したようですが労働者,特に若者の世界の格差が拡大しているのです.
予想では格差が拡大すれば,人々の労働のインセンティブ(誘因)は高まる,とされていましたが,そんなことはなかったのです.意欲の向上には,誰もがいつからでもチャレンジする機会が均等に与えられ,公正な評価がなされなければならなかったのですが,その仕組みは作られてきませんでした.この前提が満たされないまま,格差だけが広がるのであれば,挑戦する気持ちは強まるどころかあきらめが先行し,社会は階層化して閉塞感が強まるだけです.
現状のままでは若い世代を無力感・無常観があまねく覆い尽くし,ひいては勤労意欲まで阻害し,いずれ将来の壊滅的な社会構造の崩壊をもたらすことになるであろう,と予測されます.良心的な識者が,適切な規制改革や社会保障政策などを通じ「再挑戦」の機会を急いで拡大すべきである,と主張しているゆえんであります.
いっぽう視点を看護職の世界に転じてみましょう.看護職の場合は,前述の現代社会の一般動向から隔絶していて,確かに我が大学に限っても新卒の学生達の就職先はよりどりみどり,まさに「就職王者」です.
しかしそだけ甘んじていて良いのでしょうか?新入職後の短期間での離職率の高さが話題となっておりますが,そればかりではありません.いったん安定した専門職としてのキャリアを積んでいても,何らかの事情で離職した期間をおいてから再就職を志したり,性格の異なる医療機関に転職したりしょうとすると,その先は困難を極めることが多いのです.
就職先の内容を吟味しない「再就職」は容易であっても,看護師が自身で持ち続けている本来のキャリアデザイン(自分がこうありたい,と願っている看護師像)を実現できる再就職は,実はかなり困難なのです.正規雇用でなければいくらでも仕事先がみつかる前述の非正規雇用の若者達のおかれた状況と変わりがないのです.
意欲ある看護職のための「再挑戦」の機会拡大は,他人事ではなく,あまねく看護の世界で,特に教育に携わる看護大学において,特筆されるべき課題と考えています.
「再挑戦」への自信は多彩な自己学習の繰り返しの中から生まれると私達は考えており,この度,文部科学省の委託で取組を始めプロジェクト「看護師の学び直しを支援する地域指向型オープン/バーチャル・カレッジの試み」がこの課題の解決に役立つことを心から願ってやみません.
平成20年3月
新潟県立看護大学 看護研究交流センター
センター長 吉山直樹